私にも、生き方に大きな影響を与えてくれた恩師といえる先生が何人もいる。その先生方を紹介したいが、ホームページで勝手に公開するとクレームを受けるような気がする。その不安を避けるために、まずは亡くなられた恩師の先生をおひとり紹介したいと思う。
石崎宏矩先生には、大学院時代および若手時代に研究を進める上で本当にお世話になった。恩師であると同時に、 前胸腺刺激ホルモン の精製を協力して行った共同研究者でもある。先生から教わったことは、「研究への真摯な姿勢」と「芸術的なまでの文章の添削」である。
私はかなりお調子者で、時々実験や研究を茶化して話してしまうことがある。そんな時、石崎先生から「それはどういうことですか? 見たら分かるのですか?」などと厳しく追及された。私が言葉に窮しても決して追及を緩めてくれることはなく、返答を求められた。「研究に対しては、面白おかしく話すのではなく、常に真剣に向き合なくてはいけない」と言いたかったのだと思う。
また、先生は論文を書く時は何度も添削を繰り返して、文章を練りに練られる。絵を完成させる芸術家の感覚なのだろう。英語でも、意味が通じれば良いのではなく、いかに正確に内容を伝えるか、さらに読み手に魅力的に感じさせるかを意識されていたように思う。
私が先生の教えを守っているとは決して言えないが、何とかこれまで一人の研究者としてやってこられたのは、石崎先生の厳しい教えを少しだけ背中に感じていたからだと思う。