昆虫が餌を食べてある大きさに成長すると、脳から前胸腺刺激ホルモン(PTTH)が分泌される。PTTHは昆虫の胸部にある前胸腺に作用してステロイドホルモンである脱皮ホルモン(物質名はエクダイソン)の合成と分泌を促進する。エクジソンは表皮の真皮細胞に働き、新しい表皮(クチクラ)の形成を促す。この時、脳の近くにあるアラタ体という器官から幼若ホルモン(JH)が分泌されていれば幼虫の表皮が、JHの分泌が抑えられていれば蛹の表皮が新しく形成される。つまり、PTTHは昆虫の脱皮・変態を最上位で制御するホルモンである(図1参照)。
PTTHは1960年代にタンパク性(ペプチド性)の物質であることが分かった。カイコPTTHは109残基のペプチド2本が15残基目のシステイン間でジスルフィド架橋したホモダイマー構造をもつペプチドホルモンである(図2参照)。また、ペプチドの41残基目のアスパラギンには糖鎖が結合している。なお、相同性を利用した遺伝子クローニングにより、カイコなどの鱗翅目昆虫のみならず数多くの昆虫類のPTTHのアミノ酸配列が明らかになっている。いずれもカイコPTTHとアミノ酸配列に相同性を有するホモダイマーペプチドであるが、その相同性は他の神経ペプチドと比較するとそれほど高くない。PTTH受容体は、Torsoと呼ばれるチロシンキナーゼ型受容体である。