私は1986年4月から2年間、アメリカ・カリフォルニア州にあるZoecon Research Instituteという研究所に留学した。Zoecon社は昆虫ホルモンを農薬に利用しようと研究開発していたベンチャー企業で、昆虫ホルモンの研究者や農薬業界では名が知られていた。Zoecon社は留学中にスイスの製薬会社サンド(SANDOZ)の傘下になった。
当時、Zoeconでは、新たにペプチドホルモンを農薬に利用するための研究プロジェクトが計画されていた。そのために「ターゲットになるペプチドホルモンを精製して、構造を明らかにする」というのが、ポスドク(博士研究員)の私に課せられた使命であった。
ともかく毎日必死で実験したが、研究は遅々として進まず、精神的にも疲れて、悶々とした留学生活を一年近く送った。ところが、一年経った頃に突如研究が進み、2つのペプチドホルモンの構造をほぼ同時に決めることができた。この成功体験が、その後研究者として生きていく上で、大きな自信になった。
絶え間なく、精一杯の努力をしていれば、神様がそのうちにご褒美をくれるという意味で「運を天に任せる」という考え方が、いつしか私の研究モットーになった。裏を返せば、「努力しない研究者には、神様は褒美を与えない」という戒めでもある。私は、研究だけでなく、人生においても同じような考え方をしているような気がする。