私は岡山県吉備郡真備町(現在の倉敷市真備町)岡田で幼少期を過ごした。故郷は自然豊かで、小学生の私は学校が終わると、春から夏は毎日近くの野山に昆虫採集に出かけた。なかでも蝶採集に魅了され、最終的に200種近い標本をもっていた。親戚の車を借りて毎年夏に、父に県北(井倉洞や蒜山など)へ蝶採集に連れて行ってもらうのが楽しみであった。いつの間にか父もいっぱしの採集者になり、私のために珍しい蝶を採ってくれることもあった。その父も先月93才で亡くなった。
高校、大学時代にはそんなことは忘れていたが、何の因果か、大学の卒論配属で「昆虫ペプチドホルモンの研究」をやることになってしまった。実は微生物か植物関係の研究をやりたかったのだが。
あれから40年あまり、ずっと昆虫ホルモンの研究を続けている。幼少期の経験や思いを持ち続けているとは言い難いが、研究成果のためではなく、昆虫という生き物を理解しようとしてきたように思う。今思えば、蝶採集が研究者としての第一歩だったのかもしれない。