2024年6月1日から一泊二日で「ウラナミアカシジミとホタル」を目当てに名古屋近郊へ出かけた。3週間ほど前にこの2種類の昆虫を見たくなり「同時に見ることができる時期と場所が近くにないか」と元共同研究者だった溝口さんへメールを送った。最初は「2種類とも自宅近くで見ることはできるが、発生の時期が少しだけ違うので同時はかなり難しい」との返事だった。ところが、1週間ほど前に「散歩中にウラナミアカシジミを今年初めて見かけた。さらに、ホタル鑑賞会も週末に開かれるらしい」と知らせてくれた。そこで、早速ホテルを予約して家族4人で週末に訪問することにした。
私が小学生高学年から中学生の始めの頃、この時期(6月)は毎日夕方に、自作の長い継ぎ竿の虫網を持って近くのコナラやクヌギ林へ行き、ゼフィルス(ゼフと呼ばれるミドリシジミ類)を採集していた(ゼフは比較的高いところにいるので、採集には長竿が必要)。私はなかでも「ウラナミアカシジミ」が好きだった。飛んでいるとアカシジミと区別がつかない鮮やかなオレンジ色だが、葉っぱに止まったり、捕まえると、翅の裏は独特な黒色のナミ模様をしている。また、網を振り回して取り逃がすと、逃れるために地面の枯れ藁の中に潜り込んで、小さい落ち葉のように擬態されたこともあった。何と頭の良い蝶なのだろうと感心したことを覚えている。故郷の真備町では、ウラナミアカシジミはかなり前に絶滅したと聞いた。
小学生の頃はヘイケボタルが自宅近くの小川の上を乱舞していて、虫網で大量に捕まえたこともあった。初夏にミドリの光を放ちながらひらりひらりと飛ぶ姿は可憐であり、生き物のはかなさも感じさせてくれる。高校時代に帰りが遅くなると、早めの時刻から飛び始めた個体を数匹見かけたような気がする。
今回は溝口さんが入念に下見しておいてくれたお陰で、数は少ないが「アカシジミ、ミズイロオナガといったゼフや、ゲンジボタルとヘイケボタル」を初日に観察することができた。ホタルはいずれも自然のもので、放流したものではないと聞いた。サービス精神旺盛で、私の目の前に止まってしばらく光を点滅させ、そのうち飛んで行った。翌朝早くにはお目当ての「ウラナミアカシジミ」が葉っぱに止まっているのを私が見つけた。溝口さんにネットで捕まえてもらい、写真を撮ったり、逃がす際にビデオ撮影をした。二人とも「昔取った杵柄だね」とたたえ合った。20年くらい前に、アカシジミは子供達と採集したし、ホタルは家族旅行中に見かけた覚えがあるが、ウラナミアカシジミは50年以上生きている姿を見たことがなかった。昔好きだった子に会ったような幼い頃の淡い気持ちを思い出した。実は、50数年前のウラナミアカシジミの展翅標本が一匹自宅に残っているのを先日発見した。
溝口さん宅の庭にあった「ウマノスズクサ」(ジャコウアゲハの食草)の苗をお土産にもらって帰宅した。蝶が訪問して産卵してくれることを期待しているのだが、ナミアゲハのようには東京ではうまくはいかないだろう。まずは枯らさないように気をつけよう。
私の目一杯のわがままを聞いてもらった溝口さんと奥様には本当に感謝している。こういう方が共同研究者だったから、私は少しは研究成果をあげられたのだろうと思った。