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春を告げる「ツマキチョウ」

 春を感じる蝶は何かと尋ねられると、私は「ツマキチョウ」を挙げる。
 私はツマキチョウが好きで、「春の天使」(ギフチョウは春の女神と言われている)だと思っている。飛んでいる姿はモンシロチョウと区別できないのだが、花や草に止まるとオス・メスともに翅の裏側にミドリ色の特徴的な紋様があり、モンシロチョウではないことに気づく。私はこの裏紋様が好きで、子供の頃にわざわざ裏側にした展翅標本を作ることもあった。

 私にとってツマキチョウというと、岡山(真備町岡田)で昆虫少年だった小学校時代の家庭訪問を思い出す。私が小学生の頃はゴールデンウィーク前に新しく担任になった先生が各家庭を訪問して家族と面談していた。そのために授業は午前中で終わり、午後は休みになる。私は自由な時間ができたので虫網を持って野山に出かけた。ある日、菜の花畑を飛び交うモンシロチョウの一匹を網に入れると、前翅の先端に黄色い紋様があり、裏翅もモンシロチョウとは明らかに異なっており、新しい種類の蝶を手に入れたと喜んだ。この経験からモンシロチョウを次々と捕獲して、その中からツマキチョウを見つけて標本コレクションを増やした。さらに効率的にツマキチョウを捕獲するために、飛んでいる姿からツマキチョウを見分けられるように観察を続けた。慣れてくると、モンシロチョウより飛び方が少しだけ早く、やや小さめで、オスであれば前翅の先端に黄色い紋様があることまで見分けられるようになった。  

 東京近郊でも、最近飛んでいるツマキチョウを時たま見かけるのだが、私にはツマキチョウと判断できても、息子達や妻にはただのモンシロチョウに見えるようである。長い間経験しなかったのに、幼い頃の記憶はしっかり頭に残っていることを知った。
 また、先週小学校の同級生のグループLINEに「そろそろツマキチョウの季節でしょうか? 海は稚鮎の季節です。」とのメッセージを送ったら、同級生で当時の蝶仲間であった内田君から「昨年も庭で1頭確認し、今年も先程、庭のコデマリの花に来ていました。ギフチョウが春の女神なら、ツマキチョウは、春の天使ですね。片岡くんの言っていたチョウです。」とのメッセージとともに写真がグループLINEに送られてきた。写真を見て、妙にうれしかった。

内田君が送ってくれたツマキチョウの写真
内田君が送ってくれたツマキチョウの写真
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記事の執筆者と略歴

この記事の執筆者

片岡宏誌のホームページ 片岡 宏誌 農学博士
                                               
1981年 東京大学 農学部 農芸化学科 卒業
1983年東京大学 大学院農学系研究科 農芸化学専攻 修士課程 修了
1986年東京大学 大学院農学系研究科 農芸化学専攻 博士課程 修了(農学博士)
1986年 Sandoz Crop Protection 社 Zoecon Research Institute(アメリカ・カリフォルニア州)ポストドクトラルフェロー
1988年 日本学術振興会 特別研究員(東京大学)
1988年 東京大学 農学部 助手
1994年 東京大学 農学部 助教授
1999年 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授
2024年 東京大学 定年退職

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