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最終講義を終えて(2)

 何人かの先生の仲介で、他大学の大学院生も最終講義に参加してくれたのだが、その学生を意識した話し方ではなかったように思う。せっかくなので、その大学院生の人達に伝えたかったことを補足しておきたい。

 学生時代は目の前の実験や研究に集中するあまり、効率的に実験を進めようとか、その実験に意味があるのか、うまくいくのかと考えがちであるが、やっている時にはその答えが分からないものだ。数年~10年くらい経つと、やっと評価できる。それが研究というものなのだ。だから、効率的なやり方や正解を指導教員に求めても無駄で、頑張るしかない。

 私が、手がけた前胸腺刺激ホルモン(PTTH)の精製・構造解析は、始めた当時の技術レベルでは成果は得られなかったと自信をもって言える。でも成功した。それは時代とともに技術が進んだからだ。ペプチドをHPLCで精製出来るようになり、ガスフェーズ・プロテインシーケンサーでそれまでの1/100量で配列分析出来るようになったからだ。この2つの技術がなければPTTHの構造は明らかにならなかった。
 実験している時に「PTTHは単離できないと思う」と口にしたことがあった。それに対して研究室の助手であった故坂神洋次先生から「やっている本人が単離できないと思ったら、絶対に単離できない」と言われた。その言葉は、正しいようで正しくない。どんなに信じても技術レベルがクリアされていない実験や研究は成立しない。一方で、努力し続けないと自身の技術レベルは上がらない。

 悩み苦しむことや、うまくいかなかった経験は、必ず人生の糧になる。「コスパとかタイパ」はあとから判断するもので、やっているときに考えるものではない。もし、「コスパとかタイパ」が大事なら大学院に進むことも、研究することも止めた方が良い。
 あとで「コスパが悪い」ことをやっていたと思ったら、次回は「コスパの良い」やり方にすれば良いのである。それが研究であり、人生だと思う。

最終講義の様子’(2024年2月17日)
最終講義の様子(2024年2月17日)
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記事の執筆者と略歴

この記事の執筆者

片岡宏誌のホームページ 片岡 宏誌 農学博士
                                               
1981年 東京大学 農学部 農芸化学科 卒業
1983年東京大学 大学院農学系研究科 農芸化学専攻 修士課程 修了
1986年東京大学 大学院農学系研究科 農芸化学専攻 博士課程 修了(農学博士)
1986年 Sandoz Crop Protection 社 Zoecon Research Institute(アメリカ・カリフォルニア州)ポストドクトラルフェロー
1988年 日本学術振興会 特別研究員(東京大学)
1988年 東京大学 農学部 助手
1994年 東京大学 農学部 助教授
1999年 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授
2024年 東京大学 定年退職
2024年 東京大学 名誉教授

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