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アオスジアゲハの寄生蠅 マダラヤドリバエ

 少し前の話になるが、お盆休みに帰省していた長男は、毎日野鳥(カワセミ)の写真を撮りに猛暑のなか妻と水元公園へ出かけていた。ある日二男が付き合ったのだが、バードウオッチングに飽きたのか、別行動をしてアオスジアゲハの小さな幼虫を3匹見つけて、もって帰ってきた。ところが、その幼虫たちはベランダのクスノキは気に入らなかったようで一口も食べなかった。そのため、幼虫のいた場所へ食草のクスノキを時々取りに行っていた。

 その甲斐があって、すくすくと育ち、9月になる頃には3匹の幼虫のうち1匹が蛹になった。ところが、半日ほど経つと三匹の(寄生蠅であるマダラヤドリバエの)蛆が蛹から出てきて数時間後に茶色い蛹になった。2匹目のアオスジアゲハも同様に蛹になった後に蛆が一匹出てきた。さらに一週間経つと、寄生蠅の蛹から一匹の成虫が羽化してきた。3匹目のアオスジアゲハの蛹からは蛆が出てくることはなく、9月中旬に羽化した。寄生されていたアオスジアゲハはいつまで待っても成虫になることはなかった。

寄生蠅マダラヤドリバエの蛹(2024年9月2日)
寄生蠅マダラヤドリバエの蛹(2024年9月2日)
寄生蠅マダラヤドリバエの蛹と成虫(2024年9月9日).jpeg
寄生蠅マダラヤドリバエの蛹と成虫(2024年9月9日).jpeg

 自然とは非情で、巧妙であり、弱肉強食であることを改めて感じた。そういえば、学生時代に野外で採集したアワヨトウの幼虫を飼育していた時、蛹化間近の終齢幼虫からおびただしい数の小さい蛆が一斉に表皮を食い破って出てきて、幼虫の周りで糸を吐いて繭を作る姿を見たことを思い出した。気持ち悪くおぞましい光景であったが、なぜだか興味深くその様子を観察していた。カリヤコマユバチという寄生蜂であることを後で知った。産卵と同時にウィルスを含む毒液を注入して、アワヨトウの免疫反応から回避するとともに、蛹化を遅らせているという説にも感心したことを思い出した。
 カリヤコマユバチはアワヨトウの幼虫に産卵管を挿して卵を生むことで寄生する。一方、マダラヤドリバエは食草に卵を産み付け、それを食した幼虫の消化管内で孵化した幼虫が腸管から体内へ侵入して寄生する。いずれも幼虫の体内で血液や組織から栄養を摂取して成長し、適切な時期に宿主から脱出する。二男によると、自然界では半数以上の幼虫が寄生されているそうだ。(鱗翅目)昆虫に、蠅や蜂といった別種の昆虫が寄生することも不思議だし、寄主から脱出する時期がそれぞれ決まっていて、それが異なることも興味深い。寄生蜂や寄生蠅を飼育するためには、寄主である昆虫を飼育する必要があり、その昆虫を飼育するためには食草が必要である。一瞬マダラヤドリバを自宅で継代飼育してみようかと思ったがやめておいた。

アオスジアゲハの幼虫(2024年8月23日)
アオスジアゲハの幼虫(2024年8月23日)
羽化直後のアオスジアゲハ(24年9月17日).jpg
羽化直後のアオスジアゲハ(24年9月17日).jpg
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記事の執筆者と略歴

この記事の執筆者

片岡宏誌のホームページ 片岡 宏誌 農学博士
                                               
1981年 東京大学 農学部 農芸化学科 卒業
1983年東京大学 大学院農学系研究科 農芸化学専攻 修士課程 修了
1986年東京大学 大学院農学系研究科 農芸化学専攻 博士課程 修了(農学博士)
1986年 Sandoz Crop Protection 社 Zoecon Research Institute(アメリカ・カリフォルニア州)ポストドクトラルフェロー
1988年 日本学術振興会 特別研究員(東京大学)
1988年 東京大学 農学部 助手
1994年 東京大学 農学部 助教授
1999年 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授
2024年 東京大学 定年退職
2024年 東京大学 名誉教授

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