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研究者に必要な資質とは(2)

 ホームページの「その他->分析」の結果を見ていて、ある日の閲覧数が前日までの4倍くらいに急に増えていることに気づいた。私は、その日同級生へ「日本農学賞受賞のお祝いメッセージに対するお礼とともに、このホームページのことをLINEで伝えた」ためだと思っていた。編集者の二男にそのことを話したところ、「研究者に必要な資質とは」の閲覧回数が急増していて、「研究者に向いている人」をグーグル検索すると私の記事が10位くらいにランクされていることを教えられた。大学院入試が近づいているので、学部学生が自分の研究者としての資質を確認したかったのかもしれない。


 私が書いた「研究者に必要な資質とは(1)」は、思いつくまま気まぐれに書いたものだったのでちょっと反省した。前回は「いろいろな面で両面性の性格を持っていることが必要だと思う」と結論した。しかし、これは誰にでも当てはまるように思う。そこで、私の周りの研究者を思い浮かべながらもう一度考えてみた。その結果、以下の2点はいずれの研究者にも共通していることに気づいた。


 まず、記憶力が良いことだ。英単語を覚えたり、年表、周期表や発表原稿を丸覚えする能力のことではない。読んだ論文内容の重要なポイントをきちんと覚えていたり、それと関連する論文の要点と出典を覚えていたり、実験試料をフリーザーのどの場所に保存したか正確に記憶していたり、といった記憶力である。当然実験ノートや学習用のノートに書き残しているが、それらを見なくてもほぼ正確に思い出せる人がほとんどである。


 もう一つは、大上段に構えたスローガンを声高に掲げないことだ。「絶滅に瀕した生物の保護に本研究成果は役立つ」とか「この研究によって、がんで苦しんでいる患者を救うことができる」など、研究成果が得られた先の先のことばかり強調するのではなく、目先の必要な実験を自分で設計・計画し、実行できる人ばかりである。研究の最終目標はきちんと意識しているが、目の前の実験目標もしっかりと定めている人が多い。これから登る山の山頂からの眺めを宣伝するのではなく、目の前の岩場をどう乗り越えるかを大切にしている。研究は一歩一歩進むしかないのだ。
 少し前になるが「STAP細胞はあります!」と叫んでいた人がいたが、あの人は研究者ではなく、役者だと私は思っている。当時TVニュースで業績が報道された時に、大学生の息子達が「iPS細胞以上の大発見だ。すごい。」と騒いでいたが、私は即座に「ES細胞のコンタミじゃないの」と一蹴した。確信があったわけではないが、割烹着姿で実験しているとか、スローガン的な発言が先行しているようで、危なさを感じた。


 「従来の定説や教科書にとらわれない、独創的な研究が研究者には求められる」と世の中は言うが、そんな独創的な研究に巡り会うチャンスは一生に一度あるかないかで、定説の方が正しいことがほとんどである。独創的な研究ではなく、独自の視点で研究を進めることに意味があると私は思っている。丁寧な実験でひとつひとつ、きちんと証明することが重要で、それに耐えられる忍耐力が大切だと考えている。


 そんな私も「独創的な研究」を行うチャンスが一度だけあった。運動神経の生存に必要な物質(栄養因子と呼ばれる)がRNAである可能性を見いだした時である。RNAは細胞内で働く物質で、細胞が壊れたり、細胞外に分泌されると、直ぐに分解されてしまうというのが定説であった。RNAが細胞外から作用することなど聞いたことがなかった。培養細胞に特定の配列をもった二本鎖RNAを添加すると特定の遺伝子発現を抑制できること(RNAi)が見いだされるずっと前のことだ。活性をもつRNAの配列を明らかにしたり、どのような機構で活性を示しているのか、解析するアイデアを思いつかなかったため「運動神経栄養因子を精製すると、その活性物質はRNAであった」との論文を書いて、区切りを付けて研究継続を断念した。今から思うと、一か八かの勝負でとことん粘っても良かったのかもしれない。うまくいっていれば、独創的な研究として昆虫ホルモン研究より世の中に大きなインパクトを与えられたと思う。
 でも、今の私は断念したことを後悔していない。そのために何人かの学生を不幸にしなくて済んだからだ。

研究者の資質
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記事の執筆者と略歴

この記事の執筆者

片岡宏誌のホームページ 片岡 宏誌 農学博士
                                               
1981年 東京大学 農学部 農芸化学科 卒業
1983年東京大学 大学院農学系研究科 農芸化学専攻 修士課程 修了
1986年東京大学 大学院農学系研究科 農芸化学専攻 博士課程 修了(農学博士)
1986年 Sandoz Crop Protection 社 Zoecon Research Institute(アメリカ・カリフォルニア州)ポストドクトラルフェロー
1988年 日本学術振興会 特別研究員(東京大学)
1988年 東京大学 農学部 助手
1994年 東京大学 農学部 助教授
1999年 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授
2024年 東京大学 定年退職

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