ホームページの沿革 詳細はこちら

ムラサキツバメ

 散髪へ行った二男が昼食時になっても帰宅せず、妻が心配し始めたときに家族LINEへ写真が送られてきた。よく見ると尾状突起があるムラサキツバメだ! 1時間後に帰宅した二男は大事そうに数本の枝を手にしていた。葉の付け根に小さい白いものがあると言い、ルーペを使ってシジミチョウの卵であることを確かめていた。帰宅途中の公園でマテバシイの葉に止まっているムラサキツバメを見つけ、食草であることから卵をしばらく探していたようだ。

 昼食後、3人でネットを持ってその公園へ出かけた。公園の隅の2本のマテバシイは新芽や脇芽を適度に伸ばしていて食草にはうってつけだった。1時間ほど待っているとムラサキツバメと思われる大きめのシジミチョウが2匹、どこからか飛んできてマテバシイの周りを飛び回り始めた。二男がそのうちの一匹をうまく捕獲できたので、ネットから放蝶する様子をビデオ撮影した。前翅のムラサキが鮮やかなメスだった。

 ムラサキツバメは私にとって不思議な思い出がある蝶である。小学生の頃、蝶採集に熱中していたある日、実家の裏庭に突然20匹以上のシジミチョウが集団で現れた。翅の表面が紫色で裏面が茶色の、ムラサキシジミに似ているが尾状突起がある初めて見る蝶だった。急いで家の中に戻り網を持って来たが、1分後には一匹もいなくなっていた。図鑑で調べてムラサキツバメだと確信したが、捕獲できなかったので証拠がなく「ムラサキツバメが集団で庭に来たが、捕まえられなかった」とは誰にも話せなかった。以来一度もムラサキツバメに遭遇することはなかった。

ムラサキツバメ♀(2024年9月28日)
ムラサキツバメ(タイトル用)
ムラサキツバメ(2024年9月28日)

 ところが、50年ぶりに東京で再会したのである。ムラサキツバメは南方系の蝶で2000年代まで関西以北(東)ではほとんど確認されていなかったが、近年の温暖化と、食草であるマテバシイが街路樹や公園に盛んに植樹されたことから東京圏でも見られるようになったようである。

 ウスバシロチョウ、モンキアゲハ、ウラナミアカシジミ、アカシジミ、ミドリシジミ、アサギマダラ、ムラサキツバメと今年は20年~50年ぶりにいろいろな蝶に再会できた。健康に気を付け、来年もいろいろな蝶に再会できることを楽しみにしている。

食草のマテバシイ(2024年9月28日)
食草のマテバシイ(2024年9月28日)
  • URLをコピーしました!
記事の執筆者と略歴

この記事の執筆者

片岡宏誌のホームページ 片岡 宏誌 農学博士
                                               
1981年 東京大学 農学部 農芸化学科 卒業
1983年東京大学 大学院農学系研究科 農芸化学専攻 修士課程 修了
1986年東京大学 大学院農学系研究科 農芸化学専攻 博士課程 修了(農学博士)
1986年 Sandoz Crop Protection 社 Zoecon Research Institute(アメリカ・カリフォルニア州)ポストドクトラルフェロー
1988年 日本学術振興会 特別研究員(東京大学)
1988年 東京大学 農学部 助手
1994年 東京大学 農学部 助教授
1999年 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授
2024年 東京大学 定年退職
2024年 東京大学 名誉教授

コメントする

コメント送信後は管理者が公開を承認するまでお待ちください。なお、スパム対策等によりコメントが拒否されることがあります。

目次