研究費の不正使用が時々マスコミを賑わすが、ニュースにはならない処分や注意を受けた研究者はたくさんいただろうと想像する。そもそも大学研究者にとって研究費とはどんなものなのか、その仕組みを含めて研究費について紹介したい。なお、私の感覚をもとにしたもので、実際とは異なるかもしれないことを最初に断っておく。
研究費獲得額に応じて実施できる実験の質や量が変わり、得られる成果も大きく影響を受ける。そのため、研究費の獲得は学生の指導や、自身の研究業績や昇進にも関わる。「研究室にとって、研究費は企業の営業利益と同じように、活力の源であり指標だ」と息子に言ったら、「企業の収益は自らの営業活動によって稼いだもので、大学の研究費は所詮税金だ」と一蹴された。確かに研究費の大半は税金であり、獲得は(競争的)その分捕り合戦である。
競争的資金の研究費として最も重要なものが「科学研究費助成事業(科研費)」である。年に一度申請の機会があり、(研究分野が近い複数の研究者によって)審査され、採否ならびに助成額が決まる。採択率は20%~30%、充足率(申請額に対して交付額の割合)は70%程度であり、交付内定日には「科研費が当たった。外れた」と教員間で話題になり一喜一憂する。研究種目によって総額や期間が異なり、研究期間は2~5年で採択されないと次年度改めて申請することになる。科研費を獲得しているかどうかは、その分野で「実績や将来性が認められているかどうかの指標」にもなると私は考えている。
他には、企業や研究財団からの「奨学寄付金(委任経理金)」、各省庁が管轄する各種「(大型)研究費」などがある。また、競争的資金ではないが、「運営費交付金(運営費)」も研究費に使うことが出来る。運営費は、光熱水料など経常経費を支払うとほとんど残らず、研究費として自由に使えるのはわずかである。
経理的には、科研費や大型研究費は原則単年度会計であるが、科研費は申請すれば一部を繰り越せることになった。委任経理金は手続きなしで年度を超えて繰越が可能である。運営費は大学全体では単年度会計だが、研究室単位では赤字や黒字になってもそれを翌年度に繰越すことができる、などの違いがある。また、専攻など組織単位で経理する「運営費」もあり、支出を研究室の「運営費」にするか、専攻の「運営費」から出してもらえるかは研究室にとっては大きな違いである。一方、事務方は個々の経費(研究費)項目の違いや目的にはあまり関心がなく、全て「公金」との認識で、法律や規則に沿って書類が整っていれば会計処理してくれる。研究費の不正使用が起きるのは、研究者は獲得した研究費が自分のお財布に仕分けて入れてあり、支出の裁量は自分に任されていると思っているからだと思う。運営費は赤字にすることができるので、年度を跨ぐ研究室会計のバッファーとしての機能もある。そのため、赤字にしたまま退職する教員がいる。従前は研究室の後任教員が赤字を引き継ぐことになっていたが、人事選考が明確な後任人事制度でなくなった今、この赤字はどうなるのだろう? 私は現役の時「残した運営費の赤字は、借金した教員の退職金で支払ってもらうべきだ」と主張したが、会議で認められなかった。責任の所在が曖昧な専攻という組織が責任を持つのかもしれない。
また、伝票に日付を記入しないことが慣習になっているが、これは請求書受領から支払いまでの期間が法律で決まっているためだと思っている。この未処理伝票は、消費税が変更される時に問題になる。一方、納入業者から「支払いは研究費が入った時で良いから、この機器を使ってみてほしい」と、強引に機器を置いていかれたこともあった。研究費が入るかどうかは時の運のようなものなのだが。また、科研費の採択結果を本人より業者の方が先に知っていたことがあり、驚いたことを思い出した。どこから情報を仕入れたのだろう?
研究費の概略や気になる慣習を説明するだけでかなり長くなったので、私が感じた問題などは「研究費-2」で書くことにする。