2025年1月6日に予備校「ニチガク」が閉鎖(破産?)したとのニュースが流れ、まもなく入試の季節だということを思い出した。今週末の18日と19日は「大学入学共通テスト」が予定されている。大学教員にとって入試は最も重要な業務で、東大教員になってから毎年必ず入試業務を仰せつかっていた。ところで、「入試の話」は関係者以外には口外してはいけないとの不問律がある。にもかかわらず、世間(大手予備校など)へいろいろな情報が流れていることを知っている。さらに、その噂の真偽について(東大)当局は明確にしていないし、教員がそれを口にすると警告を与えてきた。多くは都市伝説かもしれないが、(私のような田舎出身の)受験生はその情報を知っているかどうかで合否に関わることもあると感じた。第一回の「入試-1」では、その問題はひとまず置いて「入試監督」としての経験について書いてみたい。受験生にとって少しは役立つかもしれない。
私が初めて入試監督を経験したのは1989年1月14日(土)の11回目(で最後)の共通一次試験である。当時の共通一次試験は、土曜日は午後からだった。受験生であった時以上に、ともかく緊張したことをよく覚えている。見かねた同じ会場の試験監督から「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。リラックス、リラックス。」と声をかけられた。だが、この言葉を受験生にかけることは禁じられている。試験監督は受験生と個人的に会話をしないように指示されている。受験生から質問があった場合は、必ずその試験室の主任監督の確認や指示を受けてから受験生へ返事することになっている。さらに、判断に迷う場合は試験本部の指示を仰ぐことになっている。つまり、要領で定められていないことは一切自分で判断してはいけないことになっている。
数年前に、センター試験で国語の試験中に定規を使っていて、不正行為と判断され受験を中断された受験生がいた。世間は、「国語の試験では定規使用が有利になるわけではないのにかわいそうだ」とか、「発達障害かもしれない。試験監督は口頭で注意するなど配慮してやるべきだ」と非難された。ところが、受験生が持っている受験案内にも試験監督の監督要領にも「机の上に置いて良いもの」が明確に規定されていて、そのことを各試験科目の開始前に必ず口頭で指示している。その中に「定規」はない。つまり使用する以前に机の上に置くことが違反で、不正行為と判断されるのである。その試験室の試験監督の人達がいつ定規を見つけたのか分からないが、想像するに、その状況に苦慮しただろうと想像する。試験本部の人にも確認してもらい、最終的に「不正行為と判断し、受験中止を言い渡した」のだと思う。本人に口頭で注意を与えれば良いのではと考えるかもしれないが、上にも書いたように受験生に個人的に話しかけることは禁じられている。例えば「受験番号を書き忘れている受験生を見つけた場合」は、その受験生個人に注意してはダメで、試験室全体へ(繰り返し)アナウンスすることが許されている。試験時間終了後、解答用紙回収前に「受験番号の書き忘れがないかもう一度確認して下さい。書き忘れがあった場合は手を挙げて試験監督が行くまで待って下さい」とのアナウンスが繰り返される場合は、その試験室の誰かが受験番号を書き忘れていることを意味している。試験監督ができる精一杯の思いやりと優しさである。定規を見つけた試験監督も何度か試験室全体へのアナウンスを試みたのではないかと推測する。ともかく、会場ごと、受験生ごとの違いを極力なくし、公平に受験させることが試験監督の役目である。決して不正行為を見つけるために試験監督がいるわけではない。
試験監督としての経験(思い出)を、さらにいくつか思い出したので「入試-2」も試験監督としての経験について紹介する。この話題くらいでは、(東大?)当局も目くじらを立てないだろう。